| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-289 (Poster presentation)
希少種の遺伝的多様性は保全上重要な情報である。カワゴケソウ科の植物は急流河川に生息する水生の種子植物である。日本に分布するカワゴケソウ科2属6種のうち、本研究ではヤクシマカワゴロモを対象とした。屋久島固有のヤクシマカワゴロモは一湊川の感潮帯最上部から上流側約3.3 kmの区間でしか見られない超狭域分布種であり、近縁種からも隔離分布している。ヤクシマカワゴロモは葉や茎が退化しており、根は葉状体となって河床から水際の岩上に固着する。冬季に開花・結実し、種子は水流による散布が予想される。また、近縁種では攪乱などによって本体からちぎれた一部分が再定着できることが報告されている。このため離れた地点に生育する個体でも同一ジェネットの可能性があり、個体数の過大評価につながる恐れがある。そこで、ヤクシマカワゴロモが置かれている状況を把握し、保全に役立てるために、分布域全体からサンプリングを行い、遺伝的多様性を評価した。具体的には、ひとつの円形パッチは同一ジェネットであるという仮説を検証し、地点間で同じ遺伝子型を持つ個体が出現するか評価した。6地点各2パッチから8サンプルずつ葉状体を採集し、MIG-seq法によりSNPを決定した。ヤクシマカワゴロモの遺伝的多様性は非常に低く、多型があったのはわずか13 sitesであり、サンプル間のAllelic differencesは最大で7だった。同一パッチ内から遺伝子型の異なるサンプルがみられた一方で、パッチ間・地点間で同一の遺伝子型を示すサンプルも存在した。SNP数が少ないため同一の遺伝子型をもつサンプルがジェネットであるとはいえないが、破片の再定着などにより、実際の個体数は見かけ上の個体数よりも少ない可能性がある。今後、低い遺伝的多様性の背景を明らかにするために、近縁種との比較などさらなる研究が必要である。