| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-290 (Poster presentation)
キク科メタカラコウ属ヤマタバコは日本固有の多回繁殖型多年生草本である。分布は長野、のほか数県であるが、各県、国の絶滅危惧IA類に指定されている。しかし、そのいずれの個体群も絶滅寸前にあるのが現状である。その原因は生育環境が国内で最も危機的な荒廃が進んでいる里山環境にあるためである。長野県の唯一の生育地である軽井沢においても1970年代までは、多くの個体群が住民の記憶に残っていたが、リゾート開発により消滅した。しかし、近年、ゴルフ場や別荘地に現存する個体群が確認された。今後これらの個体群の保全には、現存個体群の生育環境の保全策を考案していく必要がある。このことから本研究は、軽井沢で確認されている各個体群の環境特性を比較検討し、生育地の現状を明らかにした。
今回の調査区は、落葉広葉樹二区(ハリエンジュ二次林)で484・233個体、カラマツ林区(カラマツ・落葉広葉樹混交林)で114個体、ウラジロモミ林縁・二区(ウラジロモミ・落葉広葉樹混交林)では15・178個体であった。光環境は落葉広葉樹およびカラマツ林区は亜高木・低木層の被度が高く、ウラジロモミ林縁区と比較した結果、6月および7月期に有意に暗くなった。ヤマタバコは根出葉シュートからなり、落葉広葉樹区では1から7 シュート個体が観察され、5シュート(2シュートから開花開始、5シュート以上は全ての個体で開花)以上の成熟個体と多くの幼個体(1シュート未開花個体)が観察された。一方、ウラジロモミ林縁区では1から4シュート個体が観察された。季節消長は落葉広葉樹およびカラマツ林区の個体は7月に全ての葉が萎凋し、ウラジロモミ林縁区は8月に萎凋した。全調査区で開花率は40%以下であったが、落葉広葉樹およびカラマツ林区の個体からは結実が全く観察されず、ウラジロモミ林縁区からは結実が観察された。以上のことから自生地の環境保全には、林床管理による光環境改善が重要であると考えられる。