| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-292  (Poster presentation)

八島ヶ原湿原における防鹿柵設置10年後のシカ痕跡と植生の変化
Changes in vegetation and deer tracks 10 years after deer fencing in Yashima-ga-hara mire, central Japan

*尾関雅章(長野県環境保全研究所), 土田勝義(霧ヶ峰みらい協議会)
*Masaaki OZEKI(Nagano Environ Cons Res Inst), Katsuyoshi TSUCHIDA(Kirigamine NECC)

 八ヶ岳・中信高原国定公園の八島ヶ原湿原では、2000年頃よりシカの侵入が確認され、その踏圧や採食による湿原植生への影響が懸念されたことから、2011年に霧ヶ峰自然環境保全協議会により湿原全周を囲う防鹿柵として鋼鉄製のフェンス(周長約4km)が設置された。本研究では、シカの痕跡分布調査と衛星画像解析により、この防鹿柵の湿原へのシカ侵入防止効果と湿原周辺の植生変化に及ぼす影響について検討した。
 防鹿柵設置前(2009年)のシカの痕跡分布調査では、痕跡は湿原のほぼ全域で確認され、最も頻度が高かった痕跡は,『踏み跡(足跡・移動経路)』であった。『踏み跡』は湿原内の池溏や湿原縁の流路等の水域の近傍で高く、泥炭ドームの上面では低くなる傾向があった。この痕跡の分布傾向を踏まえ、2011年に湿原内で『踏み跡』の明瞭な2地点に1m×10mのシカ痕跡のモニタリング地点を設定した。
 防鹿柵設置10年後の2021年に、このシカ痕跡モニタリング地点で再調査を行ったところ、シカの踏み跡の頻度が減少し、湿原植生の植被が回復していることが確認された。あわせて、空中写真(撮影年:2010年・2021年、解像度50cm)を用いて、モニタリング地点周辺のシカの踏み跡を目視判読した結果、2010年に視認された複数の経路のうち一部は2021年には不明瞭となっており、モニタリング地点以外でも湿原植生の回復がすすんだことが確認された。
 防鹿柵による湿原周辺の森林植生および半自然草原の植生変化については、2016年と2021年の展葉期と落葉期のSentinel-2衛星画像(解像度10m)を用いて、防鹿柵周辺の土地被覆分類を行った。2016年から2021年までの5年間で、防鹿柵の内外とも落葉広葉樹林の面積が増加していたが、その増加率は防鹿柵の内側が外側よりも高かった。これらの結果から、防鹿柵設置後10年で、湿原へのシカ侵入防止効果が得られた一方で、防鹿柵内では草原域の樹林化が進行した可能性が示唆された。


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