| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-301 (Poster presentation)
農業の拡大・集約化に伴う生物多様性の劣化・損失を抑えるため、化学合成農薬・肥料の使用を減らした環境保全型農業の普及・推進が図られている。こうした背景から、環境保全型農業が水田の生物多様性を保全する効果を評価する研究が実施されている。一方、水田の生物多様性を把握するには、多大な調査労力と生物種を同定するための専門的知識を要するため、より簡便な生物多様性の評価手法を確立する必要がある。そこで、演者らは近年新たな生物モニタリング手法として注目されている環境DNAメタバーコーディング法を用いて水田の生物多様性評価を試みた。この技術は環境中に存在する生物のDNA情報を分析することで、特定分類群の生物種を高感度で網羅的に検出できるため、より簡便かつ包括的な水田の生物多様性評価が可能になることが期待される。
栃木県上三川町の有機水田3筆・慣行水田3筆および水源となる水路1カ所を対象に、2020年7月から8月にかけて採水を行い、水検体から抽出したDNAを基に鳥類・魚類・昆虫類を対象とした分析を行った。メタバーコーディングプライマー(MiFishとMiBird)を用いた分析の結果、魚類については24種、鳥類については17種を確認することができた。検出された種は概ね現地の生物相を反映していたが、一部の検体からはニワトリや海水魚など、排水や肥料に由来すると考えられるDNAも検出された。昆虫については、昆虫類の検出率が高いmtDNAのCOI領域を対象に分析したところ、ハエ目やカゲロウ目を中心とする昆虫種が多く確認された。一方、水田に普遍的なトンボ目やカメムシ目の昆虫がほとんど確認されないなど、検出された分類群には大きな偏りが見られた。これらの生物群集データを用いて、農法の違いが種数や種組成に及ぼす影響を検討したところ、全体的に農法の影響よりも時間的な変動性の方が大きい傾向が見られた。これらの結果を基に環境DNAを用いた生物多様性評価手法の課題を整理し、今後の展望を述べる。