| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-302 (Poster presentation)
湿地は私たちに様々な恵みをもたらす生態系である。しかし、開発や汚染などにより、国際的に多くの湿地が消失・劣化の危機にさらされている。中部地方に分布する湧水湿地群も例外ではなく、豊かな植物の多様性をもちながら、開発や遷移の進行によりその数が急激に減少している。さらに1960年~1970年代に進められた拡大造林施策により、湿地内にスギやヒノキがさかんに植栽された。植栽木は被陰や土壌水分の競合によって、在来植物の生育に負の影響を与えるおそれがある。そこで私たちは、湧水湿地から過去に植林されたスギ・ヒノキを伐採し、在来植生を復元する試験を実施した。試験は、岐阜県中津川市にある湧水湿地にて、湿地所有者らと協働で実施した。伐採前に、湿地内に3つの調査区を設け、うち2つを伐採区、1つを対称区とした。伐採区では高木層の幹密度が約46%低下し、ハナノキやシデコブシといった本地域に固有の木本植物の相対優占度が増加した。伐採後、4年にわたり草本層の出現種を記録したところ、種数とシャノンの多様度指数はどちらも高いレベルで維持されており、レジームシフトによる外来植物の侵入や好強光性植物の増加などはみられなかった。4つの形質をもとに植物群集の機能的多様性(Rao’s Q)の変化を調べたところ、対称区よりも伐採区のほうが、また伐採前よりも伐採後のほうが低い値となった。これは、湧水湿地の在来植物が植栽木とは異なる種子散布様式や開花期を持つことに起因しており、湧水湿地が本来もつ機能群の構成が復元されたと解釈した。伐採区の草本層には、国または県のレッドリスト掲載種が4年間でのべ10種確認された。また湿地所有者らが祭事や日常生活で利用したことのある植物や、湿地景観の象徴として重要視する種が多く出現した。非在来針葉樹の除伐は、生態系サービスを担う種の生育を助け、湿地と地域の人々との関係性を保全していく上でも効果的であると考えられた。