| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-306 (Poster presentation)
倒流木は主に河畔林から供給される最大の有機物である.倒流木は河川生態系において水生生物の生息場所や隠れ場所等として重要な構造物であるが,日本では土石流等の倒流木による災害が問題視され,防災の観点からの研究がなされてきた.しかしながら,昨今は日本の河川においてもその生態系における重要性が明らかにされてきており,環境保全に繋げる上で倒流木を評価することは重要である.そこで本研究では,人工的に倒流木を設置し,倒流木が発生してからどのように河川環境が変化するのかを明らかにし,倒流木が河川生態系の保全に役立てられるか検討することを目的とした.
調査は北海道釧路川の支流に,流木区としてサイズの異なる3本の倒流木を設置し(それぞれ直径10 cm,20 cm,30 cm),また,倒流木を設置していない対照区を用意して行った.これら4つの区に対して,物理的環境(流速,水深,底質)および生物的環境(魚類,水生昆虫)に関して調査した.
調査の結果,一部の倒流木の付近では,設置前と比較して流速が緩やかになり,水深が深くなった.また,底質は倒流木の上流側に砂,下流側に礫が堆積している傾向が見られた.倒流木を設置していない対照区ではこのような変化は見られなかった.倒流木設置後の魚類調査では,明らかに対照区よりも流木区の方が魚類の観察数が多い結果になった.
流速が緩やかになったのは,倒流木によって水流が遮られたためであり,遮られた水流が倒流木の下を通る際に底が削られることで水深が深くなったと考えられた.また,底質は倒流木の上流側で水流が遮られることで砂が堆積しやすくなり,倒流木の下を抜けた水流によって下流側では砂が流され,礫が残った可能性がある.魚類が流木区で多く見られたことから,倒流木が魚類にとって好適な環境を提供している可能性が示唆された.継続して調査することでさらに河川生態系への影響が明らかにできると思われる.