| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-307 (Poster presentation)
利根川下流域は再導入コウノトリの関東における定着拠点の一つであり,当地の広大な湿田景観や河道内湿地等による周年の採餌環境の豊富さが,定着の一因と推察されている.利根川下流域左岸の茨城県神栖市には,江戸時代の新田開発によって砂丘地帯の後背湿地を地下水面まで掘り下げ,天水や地下水を利用する水田景観,「掘下田」が形成されており,ここでは周年,田面全体が乾きにくい.演者らは農閑期の掘下田における水生動物群集の生息状況を調査し,調査地近辺の休耕田ビオトープや河道内の自然再生湿地における群集と比較した.さらに農繁期の掘下田とも群集を比較することで,コウノトリの採餌環境として,また水生動物群集の生息環境として農閑期の堀下田を評価した.
2021年11月中旬に神栖市の掘下田9枚,休耕田ビオトープ1枚,河道内湿地4か所において,定量的な水生動物の掬い取り調査を実施した.
9枚の掘下田で41分類群3,454個体の水生動物が採集された.コミズムシ属(38%)とサカマキガイ(27%)の個体数が多く,これらが過半数を占めた.また水生昆虫類が24分類群を占めた.NMDSとクラスター解析の結果,掘下田と他の調査地とで群集が大別された.11月の掘下田は,6月(農繁期)と同程度の水生動物群集の多様性を示した.農閑期における掘下田の水生動物群集の特徴として,一部では湿田の代表種であるドジョウやマルタニシが多く,水生カメムシ目,コウチュウ目の成虫・幼虫が多分類群記録されたことから,在来の水生動物に良好な湿田環境が維持されていることが示された.その一方でカダヤシやアメリカザリガニ,スクミリンゴガイ等の侵略的外来種が繁殖していた.このように農閑期の掘下田はコウノトリの採餌環境としての機能は高いものの,その群集は希少な在来種と侵略的外来種によって成立しており,健全な水田生態系を維持しつつ,コウノトリの採餌環境の確保および創出を目指すことが求められる.