| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-311  (Poster presentation)

ノベル生態系としての路面間隙に成立する海岸植物群落 青森県西海岸の事例
A Study on Coastal Plant Communities Established in Road Pavement Seams as Novel Ecosystems: A Case Study of the West Coast of Aomori Prefecture

*村上健太郎(北海道教育大学函館校)
*Kentaro MURAKAMI(Hokkaido Univ. of Education)

はじめに:擁壁,路面間隙などの人工硬質構造物は,普通,生育する植物の種組成は雑草的である。しかし,近年,このような人工硬質構造物からなる空間もノベル生態系(過去に出現したことがない従来とは異なる種組成や物理的環境からなる生態系)の一つとして,保全に活かそうという試みが見られる。そこで,本研究では,海岸に近い路面間隙をノベル生態系の一事例として調査し,海崖植物の生育地となりうるかについて検討した。
方法と材料:青森県西部津軽地方の海岸及び海崖に近い幹線道路脇の路面間隙38箇所(長さ各20 m)を2021年6~7月に線分被度法によって調査した。得られたデータは相対優占度に変換したうえでNMDS等の解析に用いた。
結果及び考察:25科77種の維管束植物が記録され,うち海崖種は10科15種(19.5 %)であった。海崖種の相対優占度の平均値(±SD)は45.9 %(±22.9)であった。国外外来種の優占度の平均値(±SD)は22.9 %(±18.5)であった。NMDSで得られた調査区の第1軸のスコアは海崖からの距離の対数値との相関が有意であった(r=0.72; p<0.01)。同様に第2軸は亀裂深との相関が有意であり(r=-0.33; p<0.05),第3軸は亀裂幅との相関が有意であった(r=0.33; p<0.05)。NMDSで得られた種のスコアでは,ハマオトコヨモギ,ラセイタソウなどの海崖生種の多くが第1軸負のほうに偏る傾向があり,海崖から離れるとともに減じる傾向が見られる一方,ハマゼリやハマボッスは第1軸正のほうにプロットされ,海崖からある程度離れた立地条件にも生育していることが示唆された。
おわりに:海岸及び海崖に近い幹線道路脇の路面間隙は海崖生種の生育場所となりうると結論付けることができる。ただし当地に生育する海崖種のうち,コハマギク,ハマイブキボウフウなどは路面間隙に生育すること自体がかなり稀であり,ハマオトコヨモギなどの特定の種に偏る傾向も見られたため,路面間隙を種多様性の高い空間とするためには検討すべき課題も多いと考えられた。


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