| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-312 (Poster presentation)
徳島県海陽町の大里松原では、2019年台風19号により海岸林のおよそ半分の面積が海水に浸かり、立木が大規模に枯死するに至った。海岸林がもつ防風や防潮、さらに津波減災機能を取り戻すためにはすみやかな植栽事業が必要であるものの、将来に管理の手間がかからない海岸林の造成が望まれる。近年ではEco-DRRといった概念も提唱され、海岸林への広葉樹導入が試みられている。しかし、四国東部では礫浜が多く広葉樹植栽は容易ではないと予想され、また、無立木化した海岸への広葉樹植栽は西日本では事例が少ないなど、植栽技術が確立しているわけではない。そこで、本研究では大里松原の再生のために広葉樹植栽技術の指針を得るため、11種類の広葉樹とクロマツを使って植栽試験をおこなった。大里松原の内陸寄りの場所に50m×20mの植栽区を設定し、2020年11月に広葉樹を、2021年2月にクロマツを20本ずつ植栽間隔を1.8mとして植え付けた。樹種の配置をランダムにし、植え穴には3.5リットルずつの園芸培土を混ぜ込んだ。植栽後の2020年12月、および1成長期を経た2021年12月に根本直径および苗高を測定して1年間の生残および成長量を評価した。その結果、スダジイでは枯死木とともに先端部の枯れで苗高を下げた個体が認められたものの、ほかの樹種では枯死割合に差はなかった。苗高成長ではトベラ、ヤマモモ、エノキ、ヒメユズリハ、およびヤブニッケイが平均35から40cm/yの、直径成長ではトベラやホルトノキが平均9から11mm/yの旺盛な成長量を示した。ヤマモモでは新芽へのミノガの食害が多く発生し、クスノキではクスベニヒラタカスミカメとみられる被害があった。海岸林での苗木植栽にあたっては、植栽後の草刈りで誤伐されないように旺盛な初期樹高成長が望まれるが、今回の試験からはトベラやヤマモモなどによって初期成長を確保しながら、ホルトノキやタブノキなどの混植で多樹種の海岸林造成を目指すことが可能だと考えられた。