| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-317 (Poster presentation)
地域知とは,それぞれの地域において人と自然の関わりが模索され作られる中で,世代を超えて受け継がれてきた伝統的な知識や知恵のことである。近年,自然再生や災害対応の中でその価値が見直され,実践活動の中で活用されるようになった。しかし,口伝や古文書の形で残されることが多い地域知は,情報へのアクセスや解読・解釈が困難な場合が少なくない。この点は,生態学者が地域知を活用する上での大きな障害になるだろう。本発表では,福井県の三方五湖周辺をモデル地域として,(1)人と自然の関わりに関する地域知をデータベース(DB)化することで,地域知利用の利便性向上を試みた事例を紹介する。併せて,(2)地域知を自然再生事業と地域活性化に利用した事例を紹介する。
まず,古文書集や郷土史を主なソースとして,三方五湖における「自然と人の関わり」を記した歴史的な情報(古文書・古絵図等)を収集した。同時に,年配の漁業者を対象に,自然と人の関わりに関する口伝について聞き取り調査を行った。収集した地域知は,(1)古絵図,(2)口伝,(3)古文書・郷土資料,(4)古写真,のカテゴリー毎にメタデータ(分類情報・出典・概要)を作成し,(1)(3)(4)については資料アーカイブを作成した。
こうして収集・整理された地域知は,自然再生活動と地域活性化に利用されている。三方五湖自然再生協議会では,2016年より湖岸ハビタットの再生を進めるための手引き書を作成,2020年より手引きに沿ったハビタットの再生を開始した。この一連の取組みに「自然の営力」に関する地域知が利用された。一方で,湖の水産資源(食利用)に関する地域知は,新聞連載やパンフレットの作製に利用されるとともに,新たな湖魚料理の開発に結びついた。
なお,このDBは用途を研究と教育での利用に制限しており,現時点では一般公開を行っていない。