| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-318 (Poster presentation)
温暖で多湿な日本の森林では、樹木に着生するコケ植物(蘚苔類)が豊富にみられる。また、マット状に着生するコケ植物の下層にはリターの有機物層(懸垂土壌)が蓄積し、無脊椎動物のハビタットにもなりうる。本研究では、単木上に着生するコケ植物および懸垂土壌の全量を採取し、宿主木に占める着生コケ植物や懸垂土壌のバイオマスを評価した。さらに、樹幹内における着生高や分枝にともなう着生コケ植物と懸垂土壌の分布特性を調査した。
老齢天然林を有する京都大学芦生研究林において、胸高直径がそれぞれ64㎝、38㎝、のケヤキとイタヤカエデの生木を伐倒し、幹の地際から主幹沿い2m毎および分枝毎を調査区分とし、周囲長を測定するとともにメジャーのライン上のコケ被覆率を目視で測定した。次に、主幹沿い2m毎に10㎝四方のコドラートを設置し、四辺において宿主木の樹皮からコケ植物先端までの厚さを測定した後、コドラート内のコケ植物および懸垂土壌を全量採集して炭素および窒素含有率を測定した。そして、調査区分毎に、全ての着生コケ植物および懸垂土壌を採集し、生重量および乾燥重量を測定した。また、樹高26mのカツラの立ち枯れ木について、幹の先端から1m毎に周囲長を測定するとともに、全ての着生コケ植物を採集し、生重量および乾燥重量を測定した。
地上部バイオマスは陸域生態系の環境保全における基礎資料であるが、着生植物は見過ごされている。宿主木よりも環境変動に敏感と考えられるため、バイオマスの定量と継続的な動態把握は早期の環境予測や保全を図るうえで重要である。今後も様々なサイズや樹種の宿主木においてデータを蓄積することで、簡易的に着生コケ植物および懸垂土壌のバイオマスを推定するアロメトリー式の作成を目指したい。また、単木上に着生するコケ植物や懸垂土壌の分布特性といった自然史データは、森林生態系における生物間相互作用の解明に有用であると考えられる。