| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-321 (Poster presentation)
個体数の増減を予測するためにも個体群の健康指標として長期ストレスの評価が必要とされてきた。近年では、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールを体毛から測定する研究事例が増加している。これは短期的なストレス評価手法であった血液や糞、尿とは異なり、体毛を用いたコルチゾール解析は長期的なストレスを評価できる利点を持つためである。そこで本研究では、体毛コルチゾール解析がクリハラリスにおいて長期ストレスの指標となり得るのかを明らかにした。まず、飼育個体を用いてコルチゾールの分泌を促す副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を複数回投与した群と単回投与した群、生理食塩水を投与した群とで体毛コルチゾール濃度を比較した。次いで、体毛コルチゾール濃度がどのような要因と関係するのかを横須賀市、鎌倉市、横浜市で駆除された個体を用いて明らかにした。その結果、ACTHを複数回投与した群は他の群よりも体毛コルチゾール濃度が有意に高くなった。そのため、体毛コルチゾール解析は長期的なストレス評価をすることが可能であり、単回のストレスイベントは体毛コルチゾール濃度には反映されないことがわかった。さらに、駆除個体を用いた結果では、体毛コルチゾール濃度は成獣において栄養状態の指標となるボディコンディションインデックスと負の関係があった。他のリスにおいて栄養状態は繁殖成績や生存率といった適応度に関連する要因と強い関係がある。そのため、クリハラリスにおいて体毛コルチゾール濃度を測定することで適応度の推測が可能になるかもしれない。ひいては、個体もしくは個体群の健康状態の指標として体毛コルチゾール解析が有効であるかもしれない。しかし、長期ストレス、つまりストレスレベルの持続的な上昇は必ずしも慢性ストレスを引き起こすわけではないため、引き続き体毛コルチゾール濃度と栄養状態、適応度の関係について調査していくことが望ましいだろう。