| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-324  (Poster presentation)

個体群密度や肥満度は生息地の質の指標になるのか?河川性サケ科魚類での検証 【B】
Do population density and individual body condition predict the habitat quality of stream salmonids? 【B】

*植村洋亮, 大槻泰彦, 長谷川稜太, 中正大, 小泉逸郎(北海道大学)
*Yohsuke UEMURA, Yasuhiko OTSUKI, Ryota HASEGAWA, Masahiro NAKA, Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.)

 個体群管理における生息環境の質の評価では個体群バイオマス(例えば、総個体数や総重量)に基づく環境収容力が着目されてきた。しかし、野外個体群においてバイオマスを定量化するのはかなりの労力がかかり、調査実施に伴う生息地への負荷も課題として挙げられている。一方、検証例は少ないが、個体群密度や個体の肥満度も生息環境の質を示す指標になりうる。環境の質が良ければ個体群密度は高いと予測できる。さらに、密度が高いと密度効果が働き、個体レベルの肥満度は低下する。特に肥満度は野外での評価が簡便なため、肥満度が生息地の指標となれば個体群管理の労力は大幅に削減される。
 この予測を検証するべく本研究では、河川性サケ科魚類2種の当歳魚・1歳以上の大型個体を対象に野外調査をおこなった。2020年8月に北海道の空知川水系30支流(個体群)で調査した結果、両種の当歳魚では総バイオマスと個体群密度に正の相関があり、個体群密度と肥満度の間に負の相関関係がみられた。つまり、当歳魚の肥満度はバイオマスの有効指標といえ、当歳魚の肥満度が低い支流ではバイオマスは大きかった。一方、1歳以上の大型個体では有意な相関関係はみられず、有効指標とはいえなかった。これらの結果から、支流など河川性サケ科魚類の生活史初期の生息場では高密度で定着する当歳魚に対して密度効果が顕著だったことが示唆された。一方、大型個体は移動能力が高く本流との交流が盛んで、個体群密度によらず高肥満度の個体も捕獲されたため、明瞭な関係が検出されなかったのかもしれない。
 本検証で示した個体群密度や肥満度を指標とする生息地の質の評価を応用すれば個体群管理の調査を低コストかつ最小限の負荷で実現できる可能性が高い。さらに、河川性サケ科魚類のみならず生活史初期の移動分散能力が低く高密度で生息する他の分類群においても有用になるかもしれない。


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