| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-325 (Poster presentation)
環境DNA技術は生物の生息状況を知る画期的な方法として近年、めざましい進歩を遂げているが、生物の定量的評価を行う際に必要な供給源についての知見はまだ十分ではない。例えば環境DNA濃度と現存量との間に有意な相関関係が報告される一方で、産卵時に高濃度の環境DNAが検出される例も指摘され、環境DNA濃度は産卵量あるいは個体数を反映するのか未だ議論の途上にあり、定量的評価に必要な供給源に関する知見の蓄積が急務となっている。一方、堆積物には様々な生物の環境DNAが保存されていることが知られ、堆積試料の環境DNAから過去数百年の長期にわたる生物相復元も明らかにされつつある。動物プランクトンのミジンコDaphniaは堆積試料中に産卵数・個体数を反映する休眠卵・遺骸(尾爪)が残存し、複数の生物特性に関する長期変化を同時に復元できる稀有な生物である。そこで本研究は、琵琶湖に生息するミジンコ2種Daphnia pulicaria, Daphnia galeataを対象に過去100年分に相当する湖底堆積物に残るミジンコ由来の環境DNAをリアルタイムPCR法で解析した。さらに堆積物中の環境DNA濃度とミジンコの個体数・産卵量を反映する遺骸・休眠卵数を比較することで環境DNAの供給源について検証した。分析の結果、対象としたミジンコ2種ともに環境DNA濃度は個体数を反映する遺骸とは一致せず、休眠卵量の変動とよく一致していることが判明した。本結果は、堆積物に残るミジンコの環境DNAの供給源が主に産卵時に放出されている可能性があること、さらに堆積物中の環境DNAを分析することで動物プランクトンの産卵量に関する長期動態を明らかにできる可能性を示している。