| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-327  (Poster presentation)

三方五湖周辺の田んぼで育成したコイ・フナ稚魚の成長量と個体数
Growth and survival of young cyprinid fishes in paddy fields around the Five Lakes of Mikata

*石井潤(福井県里山里海湖研)
*Jun ISHII(Fukui Pref.)

福井県の三方五湖(5つの湖の総称)に生息するコイとフナは、地域の伝統的な食文化の1つとして重要な漁業対象種となっている。三方五湖自然再生協議会は、自然再生目標の1つとしてこれらコイ・フナ個体群の保全に向けて、水域ネットワークに焦点を当てた活動を行っている。コイ・フナの成魚は主に三方五湖に生息するが、春季に周辺の田んぼに遡上して産卵し、孵化した仔稚魚が田んぼで成長する生活史を持つ。しかし近年、圃場整備に伴い水路と田んぼをつなぐ用排水口の構造が変わり、コイ・フナの成魚が田んぼに遡上できなくなっている。そこで保全策として、水田魚道の設置に加えて、シュロ(産卵基質)を河川などに設置して採卵し、孵化した仔稚魚を田んぼに導入する活動が行われている。この保全手法の技術的向上を目指して、試験的に田んぼ1反あたり1500個体を目安に仔稚魚を導入し、中干し時期までの成長量と生残個体数を評価して、改善点を検討した。
 2018~2020年の3年間でのべ19筆の田んぼで調査した。1反あたりの導入個体数は357~7615個体(中央値:1500個体)であり、仔稚魚の田んぼでの育成期間は中干し時期の回収日までの日数で24~60日であった。各田んぼで育った稚魚の全長と生重の平均値(n = 13筆)は、それぞれ4.1~8.5 cm(中央値:6.1 cm)と0.9~13.5 g(中央値:4.1 g)で、どの田んぼでも一定の成長が確認された。しかし、1反あたりに回収できた個体数と導入個体数に対する回収個体数の割合(n = 19筆)は、それぞれ0~414個体(中央値:30個体)と0~36.8 %(中央値:0.8 %)で、確認できた生残個体数は少なかった。その原因として通常の水管理下で生じる用排水口からの水の流出に伴う逸出の可能性が考えられたため、2021年は用排水口に網を設置した結果、回収個体数の割合は0~74.7 %(中央値:7.2 %、n = 8筆)と増加する傾向が認められた。まだ試行件数が少ないため、来年度も調査を継続することが課題である。


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