| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S01-2  (Presentation in Symposium)

ボルネオ島の熱帯雨林で同所的に生息するシベット4種の共存機構を探る
Investigating coexistence mechanism of four civet species in Bornean rainforests

*中林雅(広島大・理工), 石川尚人(海洋研究開発機構), 蔦谷匠(総研大・先端科学), 佐々木瑶子(海洋研究開発機構), 小川奈々子(海洋研究開発機構), 大河内直彦(海洋研究開発機構), AHMADAbdul(マレーシア・サバ大), 幸島司郎(京都大・野生動物)
*Miyabi NAKABAYASHI(Hiroshima Univ.), Naoto ISHIKAWA(JAMSTEC), Takumi TSUTAYA(SOKENDAI), Youko SASAKI(JAMSTEC), Nanako OGAWA(JAMSTEC), Naohiko OHKOUCHI(JAMSTEC), Abdul Hamid AHMAD(Universiti Malaysia Sabah), Shiro KOHSHIMA(Kyoto Univ.)

 東南アジア熱帯は、同所的に生息する食肉目の種数がアフリカ熱帯、新熱帯よりも圧倒的に多い。とくにジャコウネコ科は多様な環境で適応放散を遂げ、ボルネオ島には8種が生息する。一般に、同所性の近縁種は空間、時間、食物などを違えることで競合を避けて共存すると考えられる。8種のうち4種はパームシベット亜科に属する近縁種で、半樹上性、夜行性、果実食傾向が強い雑食性など、生態が似通っている。しかし、4種の詳細な生態の研究例は少なく、共存機構は分かっていない。
 本研究の目的は、ボルネオ島の熱帯雨林に同所的に生息する食肉目ジャコウネコ科パームシベット亜科4種の共存機構を考察することである。発表者らはボルネオ島マレーシア・サバ州の低地熱帯雨林で2010年から2018年にかけて、4種の共存に影響すると考えられる利用環境と採食物を調査した。3種の個体追跡の結果、3種の行動圏が重複し、同じ時間帯に同じ果実を採食することを確認した。また、2平方キロメートル内で4種すべての生息を確認した。つまり、4種の利用環境と活動時間帯、採食果実は重複している。次に、4種の体毛に含まれる全炭素・窒素同位体比とアミノ酸の窒素同位体比を用いて、栄養段階および餌となりうる生物を推定した。捕獲が極めて困難なためサンプルサイズは小さいが、その結果、2種は異なる栄養段階に位置しており、そのうち1種は推定された餌生物が他の3種とは異なることが示唆された。最も近縁な2種の栄養段階は重複していたが、生息する標高が異なる。したがって、パームシベット亜科4種の共存機構は、互いに異なる食性または生息標高であることが示唆された。
 ボルネオ島は東南アジアの中でもとくに果実生産が低調で不安定である。こうした環境では食物をめぐる競合が苛烈だと考えられる。採食果実は重複するが、果実以外の食物を利用する雑食性の程度がパームシベット亜科の共存に影響することが考えられる。


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