| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S01-3  (Presentation in Symposium)

大規模野外操作実験で紐解く生態系間相互作用の季節動態
Large-scale field experiments for revealing seasonal dynamics of inter-ecosystem linkage

*佐藤拓哉(京都大・生態研)
*Takuya SATO(Kyoto Univ.)

 異質な生態系をまたぐ生物や生物遺骸、栄養塩の移動(系外資源流)は、明瞭な季節性をもつことが多い。理論的には、この系外資源流の季節性は、受けて側の消費者個体群や群集の動態を大きく左右する。しかし、自然環境で、系外資源流の季節性(ピークタイミングや持続性)が、受け手側の群集や生態系機能に影響する仕組みは十分に検証されていない。本発表では、川と森の生態系を舞台に、森から川への系外資源流の季節性が河川生態系に及ぼす影響を検証した事例について紹介する。
 一つ目の事例として、カナダの西海岸の森林河川において、森林から河川に供給される陸生昆虫の季節的タイミングを人為的に操作する大規模野外操作実験を行った。その結果、春から夏の系外資源流は、サケ科魚類の強い成長応答と個体群バイオマスの急な増大を引き起し、間接的に河川の底生動物群集や落葉破砕速度に負の間接効果をもたらすことが明らかになった。一方、同じ総量で供給した夏から秋の資源流は、同様の間接効果をもたらさなかった。この実験からは、消費者のタイミング依存的な応答が、系外資源流がもたらす間接効果の強さや正負を規定する鍵となることが明らかになった。
 二つ目の事例として、京都大学和歌山研究林内の森林河川において、陸生昆虫供給の持続性(集中=30日 vs. 持続=90日)を操作する野外メソコスム実験を行った。その結果、集中的な系外資源流は、消費者である魚類の種内競争を緩和することで、体サイズ変異を小さくする一方、持続的な資源流は、大型個体による資源の独占を促進することで、体サイズ変異を大きくすることが明らかになった。さらに、集中的な系外資源流は、持続的な場合に比べて、強い正の間接効果を底生動物群集と落葉破砕速度にもたらすことが示唆された。
 発表では、一連の研究結果に基づき、生態系間のつながりを操作する大規模野外実験を長期に継続する重要性やその戦略についても議論したい。


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