| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S01-5  (Presentation in Symposium)

森と川のつながりが維持するアマゴの生活史多様性:野外操作実験とゲノム解析の融合へ
Forest-stream linkage maintains life-history variation in red-spotted masu salmon

*上田るい(神戸大・理), 金岩稔(三重大・生物資源), 照井慧(UNC Greensboro), 瀧本岳(東京大・農), 武島弘彦(東海大・海洋), 勝村啓史(北里大・医), 橋口康之(大阪医科薬科大・医), 山﨑曜(国立遺伝学研究所), 佐藤拓哉(京都大・生態研)
*Rui UEDA(Kobe University), Minoru KANAIWA(Mie University), Akira TERUI(UNC Greensboro), Gaku TAKIMOTO(University of Tokyo), Hirohiko TAKESHIMA(Tokai University), Takafumi TATSUMURA(Kitasato University), Yasuyuki HASHIGUCHI(OMPU), Yo YAMASAKI(NIG), Takuya SATO(Kyoto Univ.)

個体群内に見られる多様な生活史は,個体の適応度や個体群動態,種分化などと密接に関連している.しかし,多様な生活史が創出・維持される仕組みは十分に解明されていない.森林-河川生態系において,春から夏に河川に供給される陸生無脊椎動物(以下,陸生動物)は,サケ科魚類の季節成長に大きく貢献し,生活史やその個体間変異を規定する主要な環境要因になっている可能性がある.

そこで,我々の研究グループでは,陸生動物の供給量やその季節的タイミングを操作する大規模野外操作実験を行い,サケ科魚類のアマゴ・サツキマスの生活史多様性への影響を検証してきた.本種には,繁殖開始年齢や繁殖回数といった生活史形質に多様性が見られることに加えて,一生を河川で過ごす河川残留型のアマゴと,成長のために海へ移動する降海型のサツキマスが同一個体群から出現する降海多型がみられる.

初めに,河川残留型のアマゴを対象に,陸生動物供給の季節的なタイミングを操作する野外操作実験を実施した.その結果,春から夏に陸生動物供給のピークが生じる処理区間では,夏から秋にピークが生じる処理区間や陸生動物の供給量が少ない対照区と比較して,高成長・早熟な生活史をとる個体の頻度が高まる一方で,低成長・晩熟な生活史をとる個体も一定の割合で維持され,生活史の多様化が促進されることが明らかになった.

次に,陸生動物がアマゴ・サツキマスの降海多型の維持に及ぼす影響を検証した.その結果,陸生動物供給は,アマゴ幼魚の夏季の成長率を高めることで,降海型になるための閾値体サイズを超える個体の頻度を高めた.結果,陸生動物供給は,降海多型の維持に大きく寄与することが明らかになった.本発表ではさらに,降海多型の遺伝基盤を探索した最新の研究成果も紹介し,大規模野外操作実験とゲノム解析を融合するアプローチで生活史多様性の創出・維持機構を明らかにする今後の展望についても議論する.


日本生態学会