| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S01-6  (Presentation in Symposium)

耐陰性樹種の稚樹の長期観察から見えてくること
What I have learned from long-term observations of shade tolerant tree seedlings

*北島薫(京都大・農)
*Kaoru KITAJIMA(Kyoto Univ.)

熱帯林における多様な樹木種が共存できる生態学的な機構は何か、ということは、群集生態学において長年の大きな命題です。この命題の解決に向けては、(ア)競争的排他原理によって負けるとローカルな絶滅となることがどうやって防がれるか(レアな種であることの有利な点)、また、(イ)ある環境のもとでの競争に最も適した特性を持つある1種が単一の優占種にならないこと(密度依存的な個体群サイズの制限)、の両方が重要と考えられています。さまざまな熱帯林群集の樹木集団の構成や時間的なダイナミクスを統計的手法で解析する結果は、この両者の重要性を示唆しますが、その生物学的なメカニズムには、多くはまだ未解明です。この謎の解明に向けては、ある一種の樹木がどのように実生や稚樹を更新して集団サイズを維持しているか、ということについて、自然史の視点から長期に観察することも新たな視点を生み出します。具体的な例として、パナマ、バロコロラド島の熱帯湿潤林のTachigali versicolor というマメ科の樹種の実生の生存と成長を、種子発芽から25年間にわたって観察していて見えてきたことについて紹介します。この種は1%未満の太陽光が当たらない環境では、実生の成長速度は大変遅いのですが生存率は高い、という耐陰性を示します。しかし、倒木などによる林冠ギャップが生じて光環境が改善すると、実生や稚樹の成長がぐっと速くなります。しかし、ギャップが閉じてまた暗くなると、葉が次々と病気になって個体の死亡率が上がり、うまく生き残れても小さいサイズの個体として次のギャップを待ちます。つまり、ある未同定の病原性微生物が密度依存的な死亡率の増加を引き起こしており、これは多様な葉内微生物群集の中のひとつなのでは、ということが見え始めています。この経験からも、多くの若手が自然を長く見つめることで、新たな発見をしてほしいと考えます。


日本生態学会