| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S02-4  (Presentation in Symposium)

「普通の自然」を未来に活かす「里山グリーンインフラ」の理念・研究・実践
"Satoyama Green Infrastructure", Citizen collaborating project for climate change adaptation using rural landscape

*西廣淳(国立環境研究所, 総合地球環境学研究所)
*Jun NISHIHIRO(NIES, RIHN)

水害リスクの軽減策を河川区域だけでなく流域全体で取り組む「流域治水」が、全国の河川で議論されている。その必要性・有効性の認識は広まっているものの、すでに食糧生産や公園利用の目的で管理されている農地や緑地を治水のために活用することは容易ではない。しかし、必ずしも治水を目的とせずとも、結果的に治水にも役立つ取り組みはありうる。このような「二次的・副次的目的」による実現は、生物多様性保全にも当てはまる。近年、生物多様性分野で議論されているOECM、すなわち自然保護区等の保全を主目的とする場所以外での保全の実現がそれである。生態系機能の多機能性を活かした社会基盤であるグリーンインフラには、これら複数の目的の同時実現を可能にする役割が期待される。
筆者らは印旛沼流域(千葉県)において、谷津(台地の辺縁に形成された小規模な浸食谷)の耕作放棄水田をグリーンインフラとして活用する取組みを進めている。耕作放棄水田でも、畔や土水路などの構造が維持されていれば、貯留・浸透機能が高まり、治水に貢献しうることが示された。さらに水生植物の保全や水質浄化などの機能も高まることが確認された。
かつての農業や生活を支えていた「里山の自然」は、生産や資源採取を目的とした生態系管理の二次的・副次的な結果として、雨水流出の抑制や動植物の生息・生育環境の維持が実現していた。すなわち、生態系供給サービスの享受を原動力とした管理の結果として、調整サービスや基盤サービスが維持されていた。現在は、農業・生活様式の変化により供給サービスのニーズは低下している一方で、気候変動の進行に伴い、調整サービス・基盤サービスのニーズは上昇している。それでは、現代・未来において何が生態系管理の原動力となるだろうか?本講演では、市民・行政と連携した多様な取り組みを解説し、議論のための話題を提供する。


日本生態学会