| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S03-2 (Presentation in Symposium)
やんばるの森は生物多様性の高さが評価されて世界自然遺産に登録されたが、ほとんどの森には伐採歴があり、様々な林齢の森が混在している。また、2016年には米軍北部訓練場の一部が返還され、この地域の生物多様性保全に大きく資することが期待されている。こうした森の履歴による構成種の違いを明らかにするため、植物種ごとの植被率と林齢や植物種数との関連を調べた。その結果、複数の種ではその植被率が増えると林齢や種数も増加する指標性をもつことが判明した。中でもイスノキは林齢や総種数、絶滅危惧植物の種数等と有意な正の相関があり、スダジイなど他の優占樹種より強く関連していた。樹種特性と林齢・種数との関係では、萌芽力が低く、材密度が高い樹種は林齢が高く、種数が多い森で多くなる傾向が見られた。やんばるの老齢林は多くの絶滅危惧種の生息地であるが、イスノキのように成長が遅く材密度の高い樹種の増加に伴い、着生植物や樹洞を利用する動物の生息地を供給する等の生態系機能を持つと考えられた。地形や方位に関しては、傾斜がきつく,標高が高い地域で種多様性が高くなったことから、山奥では利用の歴史が浅いことと関連していると考えられた。また、返還地の種多様性や種組成は、返還地ではない非皆伐老齢林と類似しており、保全対象となる絶滅危惧植物の種数も非皆伐老齢林と同等であったことから、返還地は戦後の訓練場であった期間は利用や盗掘などの攪乱頻度が低かったことが理由と推察された。従って、返還地はそれまで僅かに残存していた非皆伐老齢林に匹敵する保全価値の高い生態系であり、この地域の生物多様性保全上大きな意義を持つと考えられた。また、標高と種数の正の相関は返還地でも同様であったことから、戦前の土地利用が返還地の生物多様性に反映されている可能性がある。こうした情報は今後の森林生態系の保全管理を考える上で基本的な情報になると思われる。