| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S03-5 (Presentation in Symposium)
世界自然遺産に登録された沖縄島北部やんばる地域の森林に生息する3種の絶滅が危惧される樹洞営巣種、ノグチゲラ、ケナガネズミ、ヤンバルテナガコガネの樹洞利用パターン(樹種、サイズ、林齢)を調査し、これら3種の保全に配慮した森林管理手法を検討した。ノグチゲラは自ら巣穴を掘ることができる一次樹洞営巣種である。キツツキは一般的に心材が腐朽した掘りやすく丈夫な樹木を営巣木として選択する。林齢によって営巣樹種の構成は異なり、老齢林ではスダジイの利用率が高く、若齢林では、早生樹であるセンダンの他に、樹木病害で枯死したと推定されたハンノキやリュウキュウマツが利用された。ケナガネズミは中琉球固有の日本最大の樹上性齧歯類である。自ら巣穴を掘ることができない二次樹洞利用種であり、スダジイやイスノキの大径木の自然樹洞を利用するとともに、ノグチゲラの古巣の利用が見られた。ヤンバルテナガコガネは、二次樹洞利用種であるが、樹洞に貯まった腐植土を餌として幼虫が成長する。成虫になるまでの約3年間に必要な質と量の腐植土を有する樹洞は極めて稀な資源である。ヤンバルテナガコガネは施業履歴の無い、原生的な老齢林のスダジイやイスノキなどの樹洞を利用していた。2021年の世界自然遺産登録により、既知のヤンバルテナガコガネの樹洞木の97%が、厳正な保護が担保される遺産登録地としてゾーニングされた。一方、ケナガネズミやノグチゲラの利用木は、緩衝地帯、周辺管理地域にも分布していた。ヤンバルテナガコガネが利用可能な樹洞木のある原生的な老齢林は、遺産登録地の中でも限られた林分であり、その面積や連続性を高める配慮が、緩衝地帯や周辺管理地域にも必要である。ケナガネズミやノグチゲラの利用する樹洞は、林業生産地域にパッチ状に残された老齢林分や伐り残された大径木にも確認されたことから、適切な配慮を行えば、現行の林業生産活動と共存できると考えられた。