| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S05-2  (Presentation in Symposium)

感染症疫学から生態学に期待するもの
What to expect from infectious disease epidemiology to ecology

*金子聰(長崎大学)
*Satoshi KANEKO(Nagasaki University)

疫学の父と言われる英国の医師 John Snowは、コレラ菌が発見される前、1852年から始まったロンドンにおけるコレラの第3次流行の際、コレラ患者の発生、さらには、住民への調査を実施した。彼は、コレラの発生と流行地域のブロード・ストリートにあるポンプ井戸との関連を見いだし、その結果がきっかけとなり、様々な対策が取られるようになり、以後、コレラの流行が見られなくなった。疫学は、このように、疾病と原因の関連を求め、それ関連を絶つことにより、疾病発生を予防するという方向で公衆衛生的な役割を果たしてきた。しかし、昨今、科学技術が発展し、とくに感染症に関しては、疾病の原因である病原体の特定が容易となり、感染症流行時の病原体特定が先行するようになっている。一方で、人々のライフスタイルの変化やグローバル化の影響により、原因病原体が特定されたにもかかわらず、その対策には直接には繋がらないことも多い。昨今の新型コロナウイルス感染症も原因病原体の特定が進む一方で、対策に向けての取組は、一向に進まなかった。病原体特的技術が進んだとはいえ、これでは、病原体が特定できなかったJohn Snowの時代と殆ど変わりの無い。しかし、John Snowの時代と現代の違いは、情報収集技術と情報量が各段に増していることである。とはいえ、収集しやすい情報が集められる一方で、感染症対策や感染症疫学に必要となる情報が集められていない可能性も高い。感染拡大やその伝播には、環境やヒト、またあるときには他の生物の影響も考慮することが必要であり、そのような意味においても、今後、生態学と疫学が連携し、新たな視点での研究、情報収集と蓄積、そしてその共有化の基盤を形成しつつ、感染症拡大や予防に関する機序の解明に取り組む必要がある。


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