| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S05-3  (Presentation in Symposium)

野生動物に分布する薬剤耐性菌の生態学
Ecology of antimicrobial-resistant bacteria in wild animals

*浅井鉄夫(岐阜大学)
*Tetsuo ASAI(Gifu Univ.)

Global action plan on antimicrobial resistance (WHO, 2015)以降、人―動物―環境分野が連携して取り組む問題として国際的に認識されている。主に医療や獣医療で使用される抗菌性物質によって薬剤耐性菌が増加、拡散する問題は古くから知られてきたが、環境中にも分布することが様々な調査で明らかにされている。我が国の「薬剤耐性(AMR)アクションプラン」においても野生動物は環境分野の一部に位置づけられている。
野生動物は救護施設で抗菌薬や薬剤耐性菌に暴露する場合があるが、通常治療されることがほとんどない。最近の調査においても、国内の野生動物から分離した大腸菌における薬剤耐性菌の分布は低率である。これは、1980年代からの調査成績と類似している。一方、特定の薬剤耐性菌の実態を知る上では、抗菌薬の入った培地を用いて薬剤耐性菌を分離する方法がとられる。そこで、医療や獣医療で重要な抗菌薬(第3世代セファロスポリンやフルオロキノロン)に対する耐性大腸菌を抗菌薬入り培地で調査したところ、都市環境に生息するイノシシやシカでは山中に生息する個体に比べ薬剤耐性菌を高率に保有する傾向が認められる。環境中への薬剤耐性菌の放出ルートとして、生活排水や畜産排水などの放流水が注目されている。生息環境における水系汚染は野生動物が薬剤耐性菌を獲得するうえで重要であるが、灌漑に利用されることで農産物を含む植物も薬剤耐性菌の汚染源となる。また、私たちが気を付けなければならないのが、餌付けの問題である。野生動物における薬剤耐性菌を制御する上で、餌付けなどについても考えなければならない。
薬剤耐性菌は目に見えない危機として潜在的な社会問題となっている。薬剤耐性菌が身の回りの野生動物から生活環境に侵入する危険性を認識しなければならない。


日本生態学会