| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S05-4 (Presentation in Symposium)
日本脳炎ウイルス(JEV)は、アジア諸国で最も頻繁に発生する蚊媒介性脳炎を起こす。主要なベクターは、イエカ属の数種類の蚊でありこれらの種はウシ(JEVにとっては終末宿主)を好んで吸血する。日本脳炎の感染についてかんがえるとき、ウシ、ブタ(増幅宿主)、ヒト(終末宿主)の空間的配置について考慮する必要があります。ここでは、アジア諸国で実施された実験的研究と現地調査に基づいて、主要なJEVベクターであるCulex tritaeniorhynchus、Culex vishnui、およびCulex gelidusの吸血行動に見られた特性を分析し感染症流行との関係を考察します。私たちの研究は、これらのJEVベクトルが牛に対する生来の好みがあることを示したが、前者2種は、おそらく豚が牛よりも豊富なために、高い豚吸血率を示した。一方で、前者2種に比べCulex gelidusは主に牛を吸血し、JEVベクターとしてより重要な前者2種よりも固定した吸血嗜好を示した。言い換えれば前者2種の蚊の吸血嗜好は利用可能な吸血源に対してより高い可塑性を示した。また私たちは吸血源となる動物の空間配置がヒトの吸血リスクに影響するか調べたところ、牛の配置が最も深刻な影響を他の動物の吸血リスクに与えていた。これらの主要なJEVベクター種の吸血行動に見られる可塑性がどのように実現するかその分子生物学的メカニズムは明らかにされていない。一般に知られる吸血前休止行動の適応的重要性は解明されていないが、宿主動物の防御的攻撃を回避する機能があるのかもしれない。この現象の応用により、新しいベクター制御戦略をうむ可能性がある。