| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S05-8 (Presentation in Symposium)
COVID-19の感染拡大の下で、日本政府は2020年4月7日に7つの都道府県で非常事態宣言を発出した。この非常事態宣言の下でどの程度予防行動をとるか、どの程度不安やストレスを感じるかについては、大きな個人差があると考えられる。このような個人差には、性格因子・道徳観などが影響していると予想される。この予想を確かめるために、4月8日にウェブアンケート調査を開始し、エピデミックによる最初の緊急事態に対する一般市民の反応を記録した。1856人の回答者(男性56.3%、宣言発出地域=49.9%)の結果から、性格、道徳、およびイデオロギーが精神的健康状態を変化させ、COVID-19に対する行動を動機付けることがわかった(錢博士との共同研究:Qian & Yahara 2020 PLOS ONE 15(7): e0235883)。この論文発表後に、性格5因子(神経質・外向性・良心性・開放性・協調性)間のトレードオフを考慮した分析を行った。その結果、神経質スコアは外向性スコアと負の相関を持つ一方で、良心性スコア・開放性スコアと正の相関を持つことが明らかになった。この結果から、神経質傾向には3つの異なる成分が含まれていると考えられる。外向性スコアが高く神経質スコアが低い人(積極的で強気な人)ほど予防行動をしない傾向があり、逆の傾向の人は予防行動をするが、その一方で不安やストレスが大きい。性格因子に加えて、知識量、性別、年齢と予防行動の関係についても分析した。その結果、知識に自信がない人ほど予防行動をしない傾向があり、しかも不安が大きいこと、女性よりも男性のほうが予防行動をしない傾向があること、年齢は予防行動に影響しないが、若者ほど不満が大きいことがわかった。このような大規模なウェブアンケート調査によって、人間行動についての生態学的研究を展開できる。このような研究の成果は、個人に対しては個人差に応じた行動指針を提供することができる。また社会に対しては、個人差を理解しあうことの重要性を提案できる。