| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S06-4 (Presentation in Symposium)
海藻を含む植物の受精卵(接合子)から発生する複相(2N)で多細胞の体は胞子体と呼ばれる。胞子体の進化は現在の植物の形態多様化と複雑な陸上・海岸生態系の起源である。胞子体は、単細胞の複相世代と単相(1N)で多細胞の体である配偶体を持つ祖先植物から進化したと考えられている。従って、多くの植物は胞子体と配偶体を両方持ち、このような生活環を世代交代という。アオサ藻綱の海産緑藻類では近縁種間でも生活環が多様化している。例えば、目内でも世代交代を行う種や祖先的な生活環を示す種が両方存在する。しかし、緑藻の生活環が多様化した理由は明らかになっていない。私は祖先的な生活環を示すヒビミドロ目緑藻の一種で、通常単細胞の複相世代に発生する接合子の一部が多細胞の胞子体にも発生するという生活環の種内多型を発見した。このような種内多型は、環境変動への適応として進化し得るだけでなく、多細胞胞子体のような質的に異なる形質の進化を仲介し得る。培養実験により測定した胞子体の相対適応度と潮間帯環境の予測できない時間的変動を考慮した数理モデルにより、接合子の発生多型により胞子体と単細胞の複相世代の両方を持つことが変動環境下で適応度を最大化する最適戦略になりうること、環境の違いにより接合子の最適な発生運命すなわち生活環が多様化することを明らかにした。実際のエゾヒトエグサ生活環の集団間比較はこの予測と一致し、異なる環境への適応形質として緑藻の胞子体と多様な生活環が進化してきたことが示唆された。