| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S06-6 (Presentation in Symposium)
紅藻類の生活環は実に多様で複雑だが、最も多くの分類群で見られる生活環は同形世代交代型である。単相の配偶体と複相の胞子体が同形であり、両世代が同時期・同所的に出現するため、世代交代を行う意義については不明な点が多い。同形世代交代型紅藻のツノマタChondrus ocellatusについて、1年以上にわたって若狭湾で生態調査を実施したところ、波当たりの強い環境では胞子体が、静穏な環境では配偶体が優占する月が多いことが明らかになった。胞子体は、配偶体よりも発芽体の生長速度が速く藻体の柔軟性が高いことから、波当たりの強い環境により適応している可能性がある。一方、配偶体は、胞子体よりも藻体の水分含有量が有意に高いため、干潮時に乾燥しやすい静穏な環境で有利と考えられるが、世代間で乾燥耐性能に有意差は見られなかった。配偶体と胞子体は、外形が同じでも物理的・生理的な特性に差があり、生育に適した環境がわずかに異なる。これが幅広い季節や環境で生育するための繁殖戦略と解釈することができる。実際に、同形世代交代型紅藻には広域に分布し一年中生育している種類が多い。一方で、配偶体世代を捨て胞子体世代だけで個体群を維持している同形世代交代型紅藻が知られている。オーストラリア沿岸には広くササバアヤギヌCaloglossa vieillardiiが分布しているが、分布の端に当たるアデレード周辺には、胞子体から放出された胞子が再び胞子体になる無性生殖集団が分布している。培養実験により、無性生殖個体は有性生殖個体よりも2度以上低い温度で繁殖できることが明らかになり、これがより低温域への分布を可能にしたと考えられる。同属のセイヨウアヤギヌC. leprieuriiでは世界各地で無性生殖個体が見つかっており、分子系統解析により無性生殖化が少なくとも8回起こったことが示唆された。紅藻類は様々な生育環境に適応するよう、それぞれの世代を上手に使い分けていると考えられる。