| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S07-2  (Presentation in Symposium)

植物の種内・種間相互作用が引き起こす葉形質の変化とその波及効果
Ecological consequences of plant trait changes triggered by intra- and inter-specific interactions between plants

*大崎晴菜(岩手連大)
*Haruna OHSAKI(Iwate Univ.)

本公演では、植物間相互作用に着目することでわかってきた、植食者の資源利用と分布決定の新たな機構に関する話題を提供する。資源集中仮説に代表されるように、植食性昆虫の分布は餌である宿主植物の生育密度に依存して決定されると考えられてきた。一方で、植物間相互作用は代謝を変化させ、葉の成分にも可塑的な変異をもたらすだけでなく、植物を利用する高次の生物の資源利用に影響を与えることが近年示唆されている。これらの知見は、植物の生育密度によって異なる植物間相互作用が生じ、植食性昆虫の分布にも間接的に影響する可能性を示唆している。
発表者は、多年生草本のエゾノギシギシ(以下ギシギシ)とその植食者のコガタルリハムシ(以下ハムシ)を用いて植物間の相互作用が植食者の分布に与える影響を検証してきた。野外調査と複数の植物を鉢に寄せ植えする栽培実験の結果、生育密度の高いギシギシでは、同種との相互作用に曝されることで、葉に含まれる縮合タンニンなどの二次代謝産物が多く蓄積していることがわかった。それらの葉は、他種との相互作用に曝されたギシギシの葉と比べ、ハムシに選択的に摂食された。さらに、ギシギシの生育密度とギシギシ間の相互作用を操作したメソコスム実験では、ギシギシ間の相互作用が生じる条件でのみ、ハムシの集中的な分布が観察されることが明らかになった。これらの結果は、同種との相互作用 に伴う植物の葉の化学成分の変化が植食性昆虫の分布決定の重要な要素の一つであることを示している。今後の展望として、植物間相互作用を考慮した、高次の生物群集の形成・維持機構についても議論したい。


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