| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S07-5  (Presentation in Symposium)

細胞の中の種間相互作用の帰結としてみる異質倍数体種の成立
Establishment of allopolyploid species as a consequence of interspecies interactions in a cell.

*吉田健太郎(京都大学)
*Kentaro YOSHIDA(Kyoto Univ.)

倍数化と雑種形成は、動物では稀であるが、植物ではしばしば見られ、植物進化における主要な原動力を担っている。異質倍数体は、種間雑種によって生じる。種間雑種から異質倍数体種へ進化するには、細胞レベルでは、染色体倍加と染色体伝達の安定化が必要であり、群集レベルでは、親種や他種との種間競争によって淘汰されない必要がある。雑種や異質倍数体種の細胞には、別種由来の染色体(ゲノム)が共存している状態である。そのため、細胞内の種間相互作用の結果によっては、雑種生育不全や不安定な染色体伝達を示す個体が生じる。このような個体は、種間競争により淘汰される。近年、シロイヌナズナを中心におこなわれた種内における雑種生育不全の分子遺伝学的解析によって、雑種生育不全の多くは、植物病原菌への防御機構が暴走することによって起こることが明らかにされた。雑種生育不全は、一般にBateson-Dobzhansky-Muller modelによる接合後生殖隔離機構と説明されるが、シロイヌナズナの研究からは、接合後生殖隔離への貢献は高くないとされる。私たちの研究グループでは、雑種生育不全の接合後生殖隔離への役割、細胞内における種間相互作用を明らかにするために、コムギとその近縁野生種であるエギロプス属植物を材料に研究を展開している。コムギ・エギロプス植物は、異質倍数体種が多数存在し、異質倍数性進化における種間雑種の系譜が遺伝学的に明らかにされている。また、この異質倍数性進化を人為的な種間交雑によって再現できる独自の特徴をもつ。しかし、人為的に作出された合成倍数体では、しばしば異数性や雑種生育不全が観察される。本発表では、まず、群集レベルでの種間相互作用と細胞内の種間相互作用との関連について概説する。そして、コムギ・エギロプス属植物でみられた雑種生育不全現象と、その分子レベルでの発現機構と現在進行中の遺伝解析の結果について紹介する。


日本生態学会