| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S13-3  (Presentation in Symposium)

微生物群集の構造と機能を結びつける
Linking the structure and function of microbial community

*近藤倫生, 楊岱霖(東北大学)
*Michio KONDOH, Dailing YANG(Tohoku Univ)

生態系では、多様な生物種が互いの個体群動態に影響しつつ共存し、さまざまな生態系機能を創出している。生物間の相互作用が多種共存や生態系機能を創出・維持する機構の解明は生態学における主要課題だが、その実証理解は容易ではない。この困難の理由として、カオス動態に代表される生態系変動の複雑性、動態を捉えるための基礎方程式がわかっていないことに加えて、生物群集や生物間相互作用の観測困難の問題がある。本講演では、この困難を克服する手法として、多種の時系列データを元に、種間相互作用を特定したり、群集動態・機能との関係の理解を目指す「ミニマリストアプローチ」を紹介する。本アプローチの特徴は、時系列解析手法を活用することで高頻度の生物・非生物の観測データから、個体群密度や群集指標(種多様性など)、生態系機能などの異なる生物学的レベルに属する要素間に働く因果の連鎖を明らかにすることにある。
さて、微生物群集は種・相互作用の高い多様性と幅広い機能によって特徴づけられるが、そのサイズの小ささや極めて速い動態、メタゲノム解析技術の発展も手伝って、ミニマリストアプローチに基づく種間相互作用-多種共存-生態系機能研究を進める上での格好の材料となりうる。実際、このアプローチを微生物群集に適用することで、これまで実証が決して容易ではなかった群集構造や機能に関する仮説をテストできる。例えば、私たちは、土壌微生物の液体培養実験系を活用することで、本アプローチによる群集ネットワークの環境ストレスへの反応の理解を試みた。その結果、高温ストレスが群集組成変化と相互作用の変容の両者を通じて、微生物群集ネットワークの構造に非常に大きな変化をもたらすこと、さらに多種共存や生態系機能にその影響が波及し得ることを示すことができた。これらの研究例から得られる視点を元に、微生物群集の構造-機能研究の今後の発展方向について議論したい。


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