| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S14-3  (Presentation in Symposium)

モジホコリ変形体の餌配置場所依存的な輸送網形成にみる環境適応行動の評価と仕組み
Evaluation and mechanism of adaptive behavior in the formation of transport network depending on the food-locations by Physarum plasmodium

*Toshiyuki NAKAGAKI(Hokkaido Univ.)

どの生き物も地球環境の変化の中で生まれ育ち進化してきた。物理環境も変動するし、生態環境も変動する。野外ではいろいろなスケールにおいて多様な変動がある。このような変動への適応能力とは果たしてどれほどのものなのだろうか?
 真核単細胞生物である変形菌の一種モジホコリの変形体(多核の単細胞体)は、あちこちに分散したエサ粒を管状の体で結び付けて、全体として巧みな輸送ネットワークを構築する。このネットワークは、なるべく短い総延長のネットワークで、かつどこかの管が事故によって部分的に失われてもなるべく全体の連結性が保たれるように、かつどの二つのエサ粒間も短い管でたどれるように、できる。両立し難い複数の基準を、ギリギリのところでトレードオフしている。これはエサ粒の少々複雑な配置に対する環境適応能力の表れと思われる。エサ粒の配置をある地域の街の地理分布に合わせてみると、あたかも現実の鉄道ネットワークのような形を作ることもある。単細胞の生き物でも、侮り難い能力を持っている。
 実際、モジホコリは、上記のネットワーク構築能力の他にも、時間イベントの予測能力や、ほぼ同一環境でも真逆の行動を取るなどの多様性発現能力なども、知られている。また、条件付け学習能力、不足栄養分を積極的に摂取する能力なども報告されている。
 本発表では、エサ場所を巧みにつなぐネットワーク形成能力に焦点を当て、そのネットワークの形状特性と形成機構について論じる。特に形成機構については、単純化した力学モデルを構成することによって、ネットワーク構築のアルゴリズムを捕まえ、モジホコリにおける原生的な知能情報処理のあり方について考察する。


日本生態学会