| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S14-5  (Presentation in Symposium)

テトラヒメナ個体群が持つ情報処理能力の定量化とその利用
Quantification and utilization of the information processing capacity of Tetrahymena population dynamics

*Masayuki USHIO(Kyoto Univ.)

生態系動態は複雑な相互作用からなる「生態系ネットワーク」によって駆動されており、ある時点での温度や生物の個体数といった情報はこのネットワークを流れながら処理・変換され、次の時点での生態系の状態を表す変数となる。この生態系ネットワークは、データ解析に利用される人工的なネットワーク(Artificial Neural Network)と類似したものとみなすこともできるが、生態系ネットワークが情報処理能力を持っているのか、持っているならばどの程度か、また我々がその能力を利用できるのか、についてはほとんど明らかにされていない。

本研究では、ニューラルネットワークの一種である Reservoir Computingの技術を応用し、生態系ネットワーク・生態系動態の情報処理能力の測定方法と利用方法を提案する。まず、予備的な解析として、野外から取られた微生物個体群動態のデータを利用しコンピュータ内で「仮想的な生態系」を再構成した。この仮想的な生態系の潜在的な計算能力を調べたところ、非線形動態の高精度な近未来予測が可能であった。

そこで、実際の個体群動態にも計算が可能であることを示すため、真核単細胞微生物であるテトラヒメナを培養し、信号を培養液の温度として入力した。その結果、テトラヒメナの個体群動態は情報処理能力を持ち、カオス時系列や野外の魚の個体群動態を予測可能であることが分かった。本発表ではこの「現実の生態学的な動態の計算能力」に焦点を当て、そこから生まれる新たな疑問について考えたい。例えば、様々な生物種において個体群動態の計算能力を評価することで、生物に関する理解は深まるだろうか?また、現在使われているコンピュータを凌駕するような情報処理能力を現実の生態学的な動態から見い出すことはできるだろうか?


日本生態学会