| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S15-2  (Presentation in Symposium)

ウイルス感染がもたらす自然環境下での宿主植物トランスクリプトームの応答
Transcriptome response of a host plant to viral infection in a natural environment

*本庄三恵(京都大学)
*Mie N. HONJO(Kyoto Univ.)

植物は様々な環境ストレスや病原体からの攻撃に対し、形態形成や生理的応答によって防御し、生存率を上げている。これらの応答の多くは、遺伝子発現の変化を介して行われる。ウイルスの感染はしばしば致死的な影響を与えるため、植物は様々な防御機構を発達させ、遺伝子発現レベルでウイルス感染に応答することが分かっている。近年、自然環境下において、顕著な病徴を示すことなくウイルスが植物に感染している例が報告されている。免疫機構を持たない植物は一度ウイルスに感染すると治癒しないことから、感染個体は長期にウイルスの影響を受けると考えられるが、植物の防御遺伝子の発現が長期的にどのように変化するかについてはほとんどわかっていない。
本発表では、数年以上にわたり継続感染が成り立っている多年生草本ハクサンハタザオとカブモザイクウイルスに着目し、ウイルス感染が引き起こす遺伝子発現応答とその季節変化について紹介する。感染個体における防御遺伝子の発現には季節性が見られ、春にはサリチル酸関連遺伝子の発現上昇、秋にはAGO2などウイルス特異的な防御機構であるRNAサイレンシングにかかわる遺伝子の発現上昇が見られた。さらに、秋特異的にアントシアニン蓄積にかかわるフラボノイド合成遺伝子の発現が感染個体で低下した。ウイルス感染により誘導されるRNAサイレンシングは、しばしば宿主のmRNAの分解を引き起こし、病徴誘導にかかわることが報告されている。フラボノイド合成遺伝子などウイルス感染により変化する遺伝子発現の制御メカニズムとしてRNAサイレンシングやヒストン修飾がどのようにかかわるのかについて考察するとともに、今後の研究展望について議論したい。


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