| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S16-1  (Presentation in Symposium)

陸域生態系サービスの全国評価とシナリオ分析
Nationwide assessments and scenario analyses of terrestrial ecosystem services

*饗庭正寛(地球研), 小黒芳生(森林総研), 柴田嶺(新潟大学)
*Masahiro AIBA(RIHN), Michio OGURO(FFPRI), Rei SHIBATA(Niigata University)

私達の生存の基盤となり暮らしを豊かに彩る生態系サービスを将来にわたって持続的に享受していくためには、生態系サービスの現状を高精度で評価するための手法を開発し、さらには気候変動や土地利用、人口動態といった要因が生態系サービスに与える影響を解明することが不可欠である。本講演では、環境省推進費「社会・生態系システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価」の一環として行った、陸域における生態系サービス評価手法の開発、および気候、土地利用、人口といった多様な変数の影響の解析、さらにはそれらを活用した複数の将来シナリオ下の生態系サービス評価の結果について紹介する。
評価手法の開発については、研究の遅れが指摘されていた文化的サービスについて、特に重点的に取り組んだ。登山者用SNSサービス、キャンプ情報誌、テレビ番組データベース、中学校へのアンケート等様々な手段により文化的サービスの指標となりうる情報を収集し、機械学習法等の手法で、地形、気候、植生、社会環境などの関数としてモデル化した。その結果、これらのサービスはいずれも広範な要因とその交互作用によって決定される複雑なものであることが示唆された。
これらの結果と政府統計等から推定した、供給・調節サービスを統合し、自然資本重視/人工資本重視、人口集中/人口分散の組み合わせからなる4つの将来シナリオの下での生態系サービスを予測し、地方間で比較した。多くのサービスで、すべてのシナリオにおいて、2050年における生態系サービスの減少が予測された。しかし、生態系サービスを人口あたりに換算すると、多くの場合、現状維持もしくは増加が予測された。また、将来シナリオと地域の間には複雑な交互作用がみられ、将来における持続的な生態系サービス享受のためには、実際の土地利用・人口動態に応じて、地域ごと・サービスごとに適切な対処を講じることが重要であると示唆された。


日本生態学会