| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S16-3 (Presentation in Symposium)
世代から世代へと受け継がれてきた伝統知やそれぞれの地域社会に特有の地域知の活用は、生態系サービスや生態系の管理において重要と考えられている。例えば、伝統知の利用や地域知の認識は、日本の生物多様性地域戦略において、生物多様性の重要性に対する住民の意識変化に影響する要素とされている。しかし、多くの地域社会において伝統知・地域知に関する情報は不足しており、知識の活用方法がわからない状況にある。世界的にみてもこれらの情報は不足しており、伝統知・地域知の消失を防ぐための対策が急がれている。
本研究では、植物に関わる伝統知・地域知として、どのような植物種が利用されているか、それらの植物種がどのような生態系サービスを支えているかを明らかにすることを目的とした。また、植物種数の増減が生態系サービスの種類数に与える影響を評価した。用いた資料は、NPO 法人共存の森ネットワークから提供を受けた「聞き書き甲子園」で、高校生が日本のさまざまな地域で行った、自然と関わる職種の人からの聞き書きの記録である。「聞き書き甲子園」から植物名と植物種の利用に関する記述を抽出し、34 項目の生態系サービスに分類した。
「聞き書き甲子園」1168話には、448種の植物種と、4225の生態系サービスに関する知識がみられた。34 項目の生態系サービスには、いずれも最低3種以上の植物種が使われており、とくに食糧、生活雑貨・道具、および工芸品には、100種以上もの植物種が使われていた。また、スギは26項目、ヒノキは23項目の生態系サービスを担っていた。その一方で、192の植物種は、1つの生態系サービスを担っているのみだった。以上のことから、全国レベルでは同じ生態系サービスを受けるために代替可能な植物種が複数存在するが、地域に限定すると伝統知・地域知の消失による生態系サービスへの影響が起こりうると考えられた。