| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S18-1  (Presentation in Symposium)

奄美・琉球の水生昆虫の危機的現状と再生の試行
Current status of Endangered Water Insects of Ryukyu Archipelago and trial of restore

*苅部治紀(神奈川県立博物館)
*Haruki KARUBE(Kanagawa Prefectural Museum)

 琉球列島の里地に生息する水生昆虫は生息環境の劣化が著しく、とくに2000年代以降各地で絶滅が進行したと考えられる。近年さらに生息状況が悪化し、既知産地で絶滅した種の増加が知られるようになっていた。
 このような危機的な背景から、演者らは、奄美諸島以南の琉球列島において以下の調査や試験を実施した。1)産地踏査と文献情報の収集による産地カルテの作成を行い、絶滅危惧状態の評価を実施、2)多くの生息地での絶滅や激減が確認されたため、その要因の推定。ネオニコチノイド農薬の汚染実態の調査、3)劣化した水辺環境の再生、保全手段の現場試験。実際には、上記を踏まえた保全対象種を選定し、現場での保全モデルの実践として、重機掘削による保全池の創出、人工池の設置、保全池における植生管理手法の構築、外来水草の排除などの対策実施。
結果として、1)これまで情報が十分でなかった小型種を含む多くの分類群で、現地調査を展開した。例えば、これまで状況が把握されていなかった、タイワンタイコウチやニセコケシゲンゴロウが極めて危機的な状況にあり、後者は国内絶滅した可能性が高いことが明らかになった。このほか多くの種の絶滅が危惧される状況にある。調査結果を踏まえて、環境省レッドリストへの掲載やランクアップを実施し、特に危機度が高いものは種の保存法指定がなされた。2)調査結果から、減少要因として、水域の消失、農薬汚染(ネオニコ汚染が蔓延)とともに、干ばつの頻発も要因になっていることが明らかになった。3)実践的な保全策として、重機利用の規模の大きい保全池の創出、植生管理、外来種駆除などの手法の試験を実施し、大規模池の創出効果が大きいことが実証できた。
琉球列島のような島嶼地域では調査も遅れ、現況把握すら不十分であった。今後の効果的かつ実践的な保全策として「すぐに使える保全技術の開発」が喫緊の課題になっている。


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