| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S19-1 (Presentation in Symposium)
草原は生物多様性が高い陸上生態系であるが、世界各地で減少しているため、優先して保全すべき多様性の高い草原の特定が急務である。近年、過去の植生履歴が現在の生物群集に影響する「レガシー効果」の報告が相次いでいる。我々のグループは、草原の継続期間が長いと特有の生物群集が形成されることや生物多様性が高まることを報告してきた。本研究は、これまでの成果に新たに地表徘徊性甲虫の種組成についてのデータを加えた上で、草原の継続期間が植物・鱗翅類・地表徘徊性甲虫類の3つの生物群の多様性・群集に与える影響を整理する。
菅平・白馬・霧ヶ峰の3地域のスキー場とその周辺で、百年~数千年続いている「古草原」、森林伐採から7~87年経過した「新草原」、そして「森林」という3つの植生タイプを対象に、各5~8地点で調査した。植物は3地域・58地点でトランセクト法により、甲虫類は3地域・57地点でピットフォールトラップにより、鱗翅類は1地域(菅平)・19地点で目視またはライトトラップで調査した。
その結果、3生物群がいずれも、古草原と新草原の間で種組成が異なった。ただし、古草原面積の効き方が生物群によって異なっており、植物・甲虫では面積の影響が見られなかったのに対し、鱗翅類では約600 m以上のスケールで広い古草原に特有の群集が成立していた。植物と甲虫では、新草原の種組成は森林に類似する傾向があった。また、3生物群に共通の傾向として、古草原に依存する指標種が多く検出されたのに対し、新草原に依存する指標種は限られていた。
植物では、種子散布が限られている種、根茎が肥大する種が古草原に依存している傾向があった。また蛾では、季節的なスペシャリストが古草原に依存している傾向があった。これらのことから、草原の継続期間が長くなるにつれて散布や定着に時間がかかる種やスペシャリスト種が増えることが「レガシー効果」のメカニズムとして考えられる。