| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S19-2  (Presentation in Symposium)

半自然草原の履歴がアーバスキュラー菌根菌群集に及ぼす効果
The effects of land use history of semi-natural grasslands on the species composition of arbuscular mycorrhizal fungi

*下野綾子(東邦大), 井上太貴(筑波大・山岳セ), 矢井田友暉(神戸大), 丑丸敦史(神戸大), 田中健太(筑波大・山岳セ)
*Ayako SHIMONO(Toho Univ.), Taiki INOUE(MSC, Univ. Tsukuba), Tomoki A. YAIDA(Kobe Univ.), Atushi USHIMARUIMARU(Kobe Univ.), Tanaka KENTA(MSC, Univ. Tsukuba)

 草原は急速に失われている生態系の1つであり、それに伴い多くの草原性植物の絶滅が危惧されている。希少種を含む在来草原を再生するには長い年月がかかり、過去の土地利用の履歴が長期にわたり植生に影響を与えることが示されている。また、植生の変化や安定性に、菌根菌が重要な役割を担っていることが指摘されている。草本の約8割がアーバスキュラー菌根菌(AM菌)と共生し、宿主植物には共生により栄養塩の獲得、生育促進、実生の定着率向上など様々な有益な作用がもたらされる。AM菌は植生遷移や土壌攪乱等の環境変化によって、群集構造や感染率が変化するため、過去の土地利用の履歴は植生だけでなくAM菌群集にも影響を及ぼしていると考えられる。
 本研究では、霧ヶ峰と菅平において長期間維持されてきた古い半自然草原と森林伐採後に成立した新しい草原を対象に、1×20 mの調査区を設置し維管束植物を記録した。あわせてバルク根およびススキの根のAM菌をメタゲノム法によって調査した。得られた配列を97%相同性でクラスタリングし、操作的分類単位(OTU)とした。非計量多次元尺度構成法(NMDS)で群集を序列化し、PerMANOVAで草原タイプの違いを検定した。
 古い半自然草原のAM菌のOTU数は多く、その群集構造は新しい草原のものと異なった。菌類群集の構造には植物群集のNMDSの第一軸が有意な効果を及ぼしていた。これらの結果はバルク根でもススキの根でも同様の傾向であった。またAM菌群集と植物群集のNMDSの重ね合わせを行うプロクラステス解析を行ったところ、古い草原の残差は新しい草原よりも小さく、古い草原ほどAM菌群集と植物群集との間に強い共変性があることが示された。
 共変性を駆動するのが宿主植物なのかAM菌なのかは不明であるが、植物だけでなくAM菌群集にも土地利用の履歴が長い間影響を及ぼしていることが明らかとなった。


日本生態学会