| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S19-7 (Presentation in Symposium)
自然攪乱の抑制や人為管理の減少などにより、世界でも日本でも草原が近年急速に減少し、多くの草原性生物が絶滅の危機に瀕している。すべての草原を保全することは不可能であるため、生物多様性が高い草原を特定して保全する必要がある。近年、植生変化などの歴史が現在の生物群集に影響を与える「レガシー効果」が注目されており、私達のグループでも、継続期間の長い歴史ある草原の生物多様性が高いことを、スキー場で明らかにしてきた。本研究では、歴史ある草原環境として低標高の「ため池堰堤」に着目し、草原の継続期間によって生物多様性が高まるかを検証した。
長野県上田市塩田平周辺で、50~450年続くため池45か所、10~70年前に造成された公園等の草原を対照区として8か所、それぞれ1×20 mの調査区に出現する維管束植物種を5~10月に3回調べるとともに、調査区周辺の約400~4000㎡に出現する希少植物を探索した。
その結果、ため池の調査区周辺にはスズサイコ・ノジトラノオ・キキョウなど環境省や長野県指定の絶滅危惧種、各都道府県指定の希少植物が計200種出現したのに対し、対照区では41種だけだった。調査区では、ため池の方が対照区よりも植物種と草原性希少植物種が多く、外来種が少なかった。また、草原性希少植物種は草原の継続期間(造成後年数)によって増える傾向があった。ため池と対照区の間で種組成も大きく異なり、ため池に特異的な指標種が176種検出されたのに対し、対照区では81種だった。ため池の指標種は、草原性希少種・多年生種が多い傾向があった。これらの種は、進入や定着に時間がかかるため歴史の長い草原ほど増えると考えられる。
本研究により、古い歴史を持つため池は希少植物の宝庫であり保全優先度が高いことが明らかになった。現在、全国のため池で進む耐震工事で貴重な植生が危ぶまれており、植生に配慮した工事が望まれる。