| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S19-8 (Presentation in Symposium)
草原生態系は、現在世界および日本国内において、過去に例がないほど急速に減少し、多くの草原性動植物が絶滅の危機にさらされている。草原を維持してきた自然攪乱・人為攪乱を過去と同水準に保って草原を全般的に保全することは難しい。そのため、草原の生物多様性を保全するためには、優先的に保全すべき草原を特定する必要がある。近年、植生変化などの歴史が現在の生物群集に影響を与える「レガシー効果」が注目されており、私達のグループでも、継続期間の長い歴史ある草原の生物多様性が高いことを、スキー場やため池堰堤で明らかにしてきた。本研究では、歴史ある草原として山城跡に着目する。
長野県には1700以上の山城跡があり、戦国時代は物見のために草原として維持され、その後も遊歩道管理等によって草原環境が保たれている例が多い。上田市の山城跡7地点と、比較対象として近い立地の中で、新たに造成された公園や土手などの「新しい草原」を7地点、森林を6地点選んだ。各地点に1×20mの調査区を設け、維管束植物種の出現を調べた。
その結果、山城跡は植物種数が多く、新しい草原や森林とは明瞭に異なる特有の植物群集が成立していた。中でも、カワラナデシコ・イヌヨモギ・オケラ・カワラマツバ・フシグロ・ヤクシソウ・コマツナギ・センボンヤリ・マキエハギ・ヤナギタンポポ・アワコガネギクなど約30種は山城跡で特によく出現し、「山城要素」として認識できた。数百年以上にわたって草原景観が維持されている山城跡には、草原の継続期間が長いことによる「レガシー効果」が働いており、周辺の森林・草原では見ることのできない多くの草原性希少植物が分布していると考えられる。また今回の成果は、文化財としての価値を持つ史跡が、自然遺産としての価値も高いことを示しており、史跡管理の意義・方法や、草原の民間保全地(OECM)の選定にも新たな尺度を与えるだろう。