| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S22-3 (Presentation in Symposium)
生態系(生物多様性・環境)の大規模長期観測は生態系機能や生態系サービスの変化を捉え、その変化を引き起こすイベントの影響を把握・予測するために重要な社会インフラである。基盤であるがゆえにさまざまな用途に利用できる広汎性を有する反面、観測目的が抽象的となってしまい、その重要性を一般に認識してもらうことが難しい。そのため、生態系観測の持続的な体制の構築には、観測結果が答えることができる社会的ニーズや政策ニーズを常に探索し続け、具体的な成果を提示していくことが必要となる。
水産分野では大衆魚とよばれる身近な魚介類の不漁が続き、自分たちの食卓で実感できるほど大きな変化が起こっている。水産庁ではこのような不漁問題に対応すべく、適正漁獲による資源管理を強化することに加え、不漁の原因は気候変動が一因であると認識し、その適応策・緩和策の双方での対応を検討している。適応策としては漁獲可能な魚種や漁法の変化に対応し、あるいは養殖を組み合わせた新しい漁業を構築するなど、緩和策としては脱炭素社会の推進に準じ、海洋における温室効果ガス吸収源である大型海洋植物の植生を維持・拡大していく取り組みなどがある。前者では各魚種の分布域や生活史の変化を把握・予測することが重要となり、後者では海洋植物の減少・拡大を引き起こす生物・物理化学環境要因を把握・予測していくことが必要となる。ここに、生態系観測とその情報を使った研究成果を活用する機会が生まれる。このような政策ニーズに対応した研究を実施することは、研究内容や目的が制限されるといった苦い一面がある一方、他分野との連携による新たな研究発展が見込める一面もある。特に、気候変動対策・脱炭素社会の構築は全分野、地球上すべての人類に共通の課題であり、研究者と多種多様な民間企業と連携した取り組みが始まっている。