| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S22-4 (Presentation in Symposium)
森林は炭素固定や生物多様性の保全など様々な機能を有している。我々は、これらの恩恵を将来の世代が損なうことなく享受できるように森林管理を進めていくことが求められている。当然ながら森林のタイプや遷移段階が異なれば、諸機能の発揮される度合いも変化してくる。どのような機能の発揮を期待するのかによって、望ましい森林の配置も変わってくる。森林管理に関わる最近の行政の流れを見ると、2019年4月に導入された、いわゆる「新たな森林経営管理制度」によって、市町村は管理が行き届かない針葉樹人工林を針広混交林に転換することを求められている。また、気候変動対策の視点からはパリ協定で求められている温室効果ガスの削減目標達成に資する吸収源として森林の役割に期待が高まっている。しかしこれらの取組を進めるにあたって、森林管理の根拠となる科学的な知見は十分とは言えないのが実情である。たとえば針広混交林への転換に関しては、広葉樹の天然更新に関する知見(具体的には更新が成功するための稚樹密度)が必ずしも十分ではなく、市町村の担当者は転換に向けてどのような施業が望ましいのか判断に窮している。また、森林の吸収源については、針葉樹人工林に比べて広葉樹天然林の蓄積量および吸収量の推定結果の不確実性が高いという問題が残っている。これらの問題を解決するひとつの鍵として、長期観測に基づく森林動態データの活用が挙げられる。森林動態に関する長期観測データを解析することによって、その更新動態や成長量を把握することが期待できる。試験地単体では不明確であった事象も複数の試験地を相互比較することによって一般化されるものもあり、それらの結果は森林管理を考える上でも有益な情報となるであろう。