| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S23-1 (Presentation in Symposium)
菌類は、世界中で150万種とも600万種とも推定されているが、実際に何種いるのか、いつどこにどんな菌類がいるのかといった、多様性やその時空間パターンはほとんど分かっていない。その理由として、菌類は生息場所の多様性が高いことが挙げられる。例えば、森林では、土壌、動物や植物体、水中などあらゆる場所に菌類が生息している。さらに、土壌であっても、数メートルほど離れてしまうと生息する菌類は変化しうる。広域的・長期的な多様性調査を行うには、多種多様なサンプル採集が必要となるため、解析に多くの費用や時間がかかってしまう。本講演では、これらの課題に取り組む1つの選択肢として、水中の環境DNAに着目した研究事例を紹介する。
菌類は生活に伴い、菌糸断片や胞子を環境中に放出している。こうした菌糸や胞子の一部は、空気中の降下や降雨に伴い川に流れ込む。そこで私は、河川水中の環境DNAを調べることで、こうした菌糸や胞子の由来となる多様な生息場所の菌類を検出できると考え、水中の菌類DNAの空間・時間パターン調査を行った。
その結果、河川水中からは、水生菌類に加えて、土壌や植物体中で生活する腐生菌や共生・寄生菌類由来と考えられる陸生菌類のDNAが多数検出された。兵庫県西部の森林河川においてDNA組成の空間パターンを評価したところ、空間的に近い支流間ほど組成は似ていた。さらに、京都市内の復元型森林内の河川において、2年間にわたる調査を行ったところ、DNA組成は年によらず調査月が同じなら似ているという、周期的な季節パターンを示した。
これらの結果は、森林内の河川は、河川周囲の多様な生息場所の菌類DNAを集める「トラップ」として機能していて、その河川水を調べることで河川周囲の菌類多様性や空間・時間パターンを調べることができる可能性があることを示している。