| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S23-2 (Presentation in Symposium)
生物がどのような分布を示すのか,定着がどのような要因によって規定されているのかは,生物種に関する基礎的な情報であり,種分化や個体群動態,群集動態の理解に不可欠である。しかし,目に見えない菌類では「どこにどんな種がいるのか」を調べることが難しく,分布や定着に関する研究は遅れている。そんな中,DNAメタバーコーディングなどの手法の発展やデータベースの整備により,見えない菌類の検出や「どこにどんな種がいるのか」の情報の蓄積が進み始めた。これらの進展により,近年では,菌類においても全球分布の推定や,定着・分布を制限する要因の研究が行われはじめている。
本発表では,演者がこれまで取り組んできた,外生菌根菌の分布研究と他の菌類機能群の分布研究のレビューを軸に,菌類の分布研究の現状を概説することで,菌類の分布の特徴を生む菌類らしさについて考察する。
演者はこれまで,外生菌根菌を対象に定着や分布に関する研究を行なってきた。外生菌根菌とはブナ科・マツ科など森林で優占的な樹木と共生し,宿主植物との間で相利的な養分の交換を行っている菌類の機能群である。外生菌根菌の定着や分布は,気候・土壌環境・分散制限など様々な要因の影響を受けることが知られているが,中でも,宿主植物は外生菌根菌の定着・分布に影響を及ぼす主要な要因の一つと考えられている。演者もこれまで,野外調査や操作実験を用いて,宿主の違いが外生菌根菌の定着を制限する要因となること,外生菌根菌の分布が宿主の分布と対応を見せることを確認している。一方で,別の機能群の菌類 (寄生菌・腐朽菌) を対象に分布研究を行った先行研究からは,外生菌根菌とは異なる分布パターンも報告されており,同じ菌類でも生き方,特に他の生物との関わり方の違いが分布パターンの違いに繋がることが示唆される。