| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S24-1  (Presentation in Symposium)

植物病のパンデミックを生み出す花や種子
Flowers and seeds causing "pandemic plant diseases"

*藤川貴史(農研機構)
*Takashi FUJIKAWA(NARO)

 植物病原体は様々な手段で植物に感染する。風や雨を介して葉に感染するもの、土壌から根部に感染するもの、虫の吸汁や食害のタイミングで感染するもの等々、植物を取り囲むあらゆる環境を利用して病原体は植物に感染しようとする。多くの病原体は傷口や自然開口部(気孔や水孔等)から侵入したり、自ら積極的に植物体内に侵入したりするが、これらは宿主の植物の生育や発達のステージによらず起こり得る。一方で、受粉や種子形成といった、植物の繁殖のタイミングをうまく利用して植物体内に侵入する病原体もいる。そのような病原体は、すぐに宿主植物に病気を引き起こすのではなく、宿主植物の体内で人知れず増殖していたり、果実や種子で増殖する機会をうかがっていたりする。こうした花粉媒介性や種子伝染性の病原体はまるで時限爆弾の様に振る舞い、その潜伏感染に気付かれないまま病原体の付着した花粉や種子は、動物や風、あるいは人の手によって更に広い地域に運ばれることになる。その結果、突然発病して樹が枯死して果樹園が崩壊したり、遠く離れた場所(海外の場合もある)の野菜畑で病害がまん延したり、といった深刻な被害となる。例えば、普段はepiphytotic(植物表生細菌)として花の柱頭上で生存している細菌が、環境条件を充たしたときに、突如深刻な病原体として豹変するものもある。あるいは、何年(何十年)もの間、野菜種子の表面に付着していた微生物が、種子が発芽したとたんに眠りから覚めて増殖を始め、畑一面に病気を発生させる。本演題では、このような花を介して発病する植物病害や種子伝染性の植物病害がパンデミックを引き起こす感染様式を説明し、花や種子と病原体との関わりを紹介する。


日本生態学会