| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S24-5  (Presentation in Symposium)

分散距離と群集集合の意外な関係
Dispersal distance and community variability

*辻かおる, Leslie DECKER, Megan MORRIS, 深見理(Stanford Univ.)
*Kaoru TSUJI, Leslie DECKER, Megan MORRIS, Tadashi FUKAMI(Stanford Univ.)

花蜜内微生物は、植物の繁殖を理解するための新たな視点を提供するだけでなく、生物群集についての基本原理を明らかにするための「自然の縮小模型」(natural microcosm)としても有用である。一般に、群集の成り立ちには群集間で起きる種の分散の頻度や距離が大きな影響を与えると考えられている。特に、分散頻度が高いほど、また、その距離が大きいほど、群集の種構成や機能が類似するというのが現在主流となっている仮説である。この仮説に反して、分散頻度が高いほど群集の類似度が低まることが、花蜜内微生物を用いた実験によって最近示された。この結果を受けて、分散頻度のほかに分散距離も操作した野外実験をカリフォルニアの鳥媒花(Diplacus aurantiacus)を用いて行った。この多年草では、開花時の蜜のpHの値は約 6であるが、Acinetobacter属など特定の微生物がハチドリを介して花に運ばれ蜜内で増殖するとpHは約2まで下がることがある。また、pHが下がるとハチドリによる訪花や結実も低下することが分かっている。今回の実験では、微生物の分散頻度が高いほど、また、分散距離が大きいほど、蜜のpHが花の間でばらつくことが分かった。さらに、花蜜内微生物のベータ多様性(局所群集間のばらつき)は分散頻度が高いほど高く、アルファ多様性(局所群集内の種数)は分散距離が大きいほど高かった。これらの傾向は、高い頻度で、かつ、広い範囲で分散が起こると、それぞれの花に移入する微生物の種数が増え、蜜内で激しい競争排除が起きるものの、最終的に優占する種は初期の相対密度に依存するため、花の間で種構成や蜜のpHに大きなばらつきが生じたと考えられる。今回の実験で得られた知見を、花蜜内微生物を「自然の縮小模型」として利用することではじめて明らかにされる群集集合の基本原理の一例として考察する。


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