| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S25-2 (Presentation in Symposium)
東南アジアの赤道熱帯では、人間活動拡大による森林減少・劣化の問題が50年以上も前から指摘されてきた。現在、一体どのような森林が広がっているのだろうか?この発表では、森林伐採の影響を受けたボルネオ島マレーシア・サバ州の低地熱帯降雨林を例に、劣化した熱帯林の植生、空間分布、二次遷移についてご紹介したい。調査地のデラマコット・タンクラップ森林管理区では1970年代から森林伐採が繰り返し行われてきたが、90年代から環境配慮型の森林伐採方法が導入されて、森林が広く残存している。現在は、一部の保護区と斜面に原生性の森林が僅かに残されている以外、大部分は二次林となっている。二次林の植生は過去の伐採圧の大きさによって大きく変異し、比較的劣化度が低い森林は極相種フタバガキと先駆種Macarangaの混交林であるが、劣化度が高い森林ではMacarangaが優占する。さらに着目すべきは、二次林景観の中に広がるツル植物に覆われた森林や、樹木を欠損したシダ草原の広がりである。衛星画像を使って解析したところ、ツル植物に覆われた森林は管理区の26%、シダ草原は5%もあった。これらの植生の成立には、過去の伐採圧の大きさや森林火災歴と関わっている可能性があり、劣化度の高い森林の中でも特に高度に劣化した森林と考えられる。そうした森林内に地上プロットを設置し観測を行ったところ、二次遷移がほとんど進行していないことが分かった。従来の教科書的説明では、原生林が利用されると先駆種の優占する二次林に退行し、二次遷移が進行するとされてきた。しかし、そのようなモデルは人為活動により高度に劣化した森林では当てはまらない可能性がある。このように、原生林から高度劣化林まで、様々な森林がモザイク状に分布する異質性の高い景観が広がっているのが低地熱帯林の現状であり、これらをどのように管理していくのかが問われている。