| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S25-3  (Presentation in Symposium)

劣化した熱帯択伐林の構造、種組成と更新特性
Structure, species composition and regeneration ability of degraded logged-over tropical rain forests

*今井伸夫(東農大), 澤田佳美(京都大)
*Nobuo IMAI(Tokyo Univ. Agri), Yoshimi SAWADA(Kyoto Univ.)

 熱帯低地林は樹高50mを超える巨大な構造で特徴付けられる一方、樹木は貧栄養土壌や動物の強い捕食圧に適応することでその構造を維持している。現在、大多数の熱帯林では、自生する大径木を数十年サイクルで抜き切りする、択伐施業が広く行われており、これらは伐採後数十年でバイオマスが元の水準にまで回復することを前提としている。しかし、強度に劣化した森林では、原生林でみられる生態的メカニズムが阻害されることで、次世代を担う原生林構成種の実生の更新が失敗している可能性がある。そこで本研究は、伐採強度と森林の構造や組成、原生林種の実生更新との関係を明らかにすることを目的とした。
 まず、ボルネオ島サバ州の強度劣化林から原生林まで満遍なく調査区を設置した。森林劣化度が上がるほど原生林を代表するフタバガキ科Shorea属の優占度や森林バイオマスが低下する一方、パイオニア種を代表するMacaranga属の優占度は上がった。Shorea属の実生密度は原生林で高く劣化度が上がるほど低下し、強度劣化林では実生は見られなかった。
 さらに、2 haプロットを原生、低インパクト伐採、強度択伐林にも設置した。林分構造や樹種組成は、先述と同じパターンを示した。調査開始時(2006年)の低インパクト及び強度択伐林における実生密度は、それぞれ原生林の約80および3%であった。強度択伐林における親木(直径30 cm以上のフタバガキ科)の密度は、原生林の50%程度であったことから実生密度は偏って低い。この理由として、強度伐採による土壌栄養の低下に伴う実生の定着不良、景観レベルでの種子供給量低下による種子捕食者(イノシシなど)の捕食強度の相対的上昇などが考えられた。実生密度は2010年に生じた一斉結実により急増したが、実生密度のパターンに変化はなかった(原生>低インパクト>強度択伐林)。以上から、強度の伐採は原生林構成種の更新を滞らせ森林の回復可能性を喪失させると考えられる。


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