| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S25-5  (Presentation in Symposium)

劣化した熱帯山岳林の生態:レジリエンスは維持されているのか?
Ecology of degraded montane tropical rain forests: Implications for forest resilience

*青柳亮太(京都大)
*Ryota AOYAGI(Kyoto Univ.)

熱帯降雨林のうち、高標高には丘陵林(600-1200 m)や山地林(1200 m以上)といった、低地熱帯降雨林とは組成や構造が異なる森林が分布している。高標高では、冷涼な気温によって有機物の分解・無機化が滞り、樹木の成長に重要な窒素の可給性が低くなる。特に緩斜面など有機物が溜まる環境では、土壌が酸性化しポドゾル化が見られるなど、低地とは異なる環境が形成される。丘陵帯より上では土地利用の歴史が浅く、劣化した二次林の生態は十分に理解されていない。そこでこの発表では、例外的に広く商業伐採を受けてきたマレーシアTrus Madi山において撹乱と樹木群集の関係を調べた例を紹介する。

低地帯(n=40)と丘陵帯(n=50)のそれぞれにおいて、劣化度の異なる森林に半径20mの植生区を作成し植生調査を行なった。発達した森林では、標高とともにフタバガキ科優占からブナ科などの優占林へ群集組成が変化する一方、劣化林では、低標高から高標高まで、同一の種群が優占していた:低地の劣化林でよく見られるMacaranga(トウダイグサ科)や低地の熱帯ヒース林(ポドゾル土壌上の森林)の極相種であるTristaniopsis(フトモモ科)など。両標高域ともに森林劣化度が高まると樹種多様性が低下することがわかった。さらに、衛星画像解析を利用し、過去20年の伐採履歴と森林群集との関係を調べた結果、低地帯では時間とともに植生が回復していくのに対し、丘陵帯では撹乱の影響が長く残っている傾向が見られた。ここでは低温や貧栄養環境が、回復速度を低下させていると考えられる。

丘陵林に大規模な撹乱が加わると、標高勾配に伴う樹種の入れ替わりが失われた上、局所的な多様性が低下するなど、大きなスケールで多様性が低下する傾向が明らかになった。これらの結果を元に、今後保全対象として重要になりうる、高標高の熱帯林の回復可能性(レジリエンス)について議論したい。


日本生態学会